ここ数年、クリニック経営において、労務管理が極めて重要な課題と認識されるようになってきました。その背景のひとつには、労務トラブルの増加ということがあると思います。
クリニックの特殊性でもあるのですが、多くの場合、労務トラブルは人間関係の問題に起因することが多く、逆を言えば、人間関係のトラブルが発生したときに、労務問題に発展することが多いのです。そして、そのときにスタッフの労務管理、雇用管理を適切に行なってこなかったがために、労務トラブルが深刻化してしまうことがあります。
結果、生起する大きな労務トラブルとして次のような例があります。
とくにクリニックは小所帯であり、中途採用の女子社員の多い職場でもありますから、院長先生への信頼感が低下することは極めて深刻な経営への影響をもたらすことがあります。このため、クリニック開業時から労務管理の重要性を認識し、適切な対策を講じることが不可欠です。こちらでは、クリニックで発生しがちな労務トラブルと、トラブルを防ぐための対策について詳しく解説していきます。
給与、というのは労働の対価であるのですが、院長先生の指揮命令に従って、誠実に働くことで得られるものです。職員に誠実さを要求するのであれば、給与も誠実に支払われなくてはなりません。
以下のようなケースが考えられます。
往々にして、これは起こりうることですが、ひとつ言えることは、①わかりやすいルールを定め、②それを周知し、③院長先生ご自身も概ね把握しておかれるということがひとつの対策になろうかと思います。
また、残業代を正確に計算するためには、所定労働時間を適切に管理しておくことが重要と言えますが、この所定労働時間が、ときとしてきわめて曖昧になっているケースも多々見受けられます。
給与に関するトラブルは、最終的には労働審判や訴訟に発展するおそれがありますが、なによりもスタッフの信頼を失ってしまうことが、もっとも危惧されるところです。きちんとしたルールを周知しておけば、「間違ってしまった」と謝れば済むはずのものが、ルールの周知がなされないために「騙していたのね、都合のいい計算をしていたのね」と曲解されてしまうおそろしさも、あります。
1日8時間、週40時間を超えた労働は、原則的には時間外労働となります。
よくある誤解は、平日は9時間労働、土曜は4時間労働のようなクリニックの場合で、平日4日と土曜なら週40時間となることから、時間外労働を計算していないことですが、これは所定の届出を労働基準監督署に提出しなければ時間外労働を計算せざるを得ません。となると、これは未払い賃金の発生ということになります。
過重労働による労働災害は、クリニックではあまり起こり得ませんが、最近は副業が自由化されていることも多いですから、そうも言っていられなくなりました。
非常勤のドクターを雇用されている院長先生は、医師の働き方改革の影響をおおいに受けることもあったのではないかと思います。
また、休憩時間の管理についても、機械的に1時間や2時間の休憩時間を労働時間から差し引いているクリニックも、まだまだ見受けられますけれども、これも正確な休憩時間を把握し、少なくとも休憩の入りに関しては1分単位で計算するべきと言えます。
まとめますと、適切な労働時間の管理には、以下のことが必要と言えます。
先述したように、クリニックの労務トラブルは、多くの場合で人間関係トラブルから始まっていきます。これまでなんとなくモヤモヤしていても、人間関係が良好なうちは表面に出なかった不満が、人間関係の悪化によって一気に爆発していくのです。
人間関係の悪化は、必ずしもハラスメントに起因するものばかりとは言えませんが、ハラスメント対策をきちんとすることが、人間関係悪化の防止に寄与することは申すまでもありません。ハラスメントの種類は様々ですが、
などの対策が考えられます。
これらは、ハラスメント防止の効果だけでなく、院長先生への信頼感を醸成するうえでも役にたつことです。
解雇というのは、労働契約の一方的な解約にほかなりません。
一般の商取引でも、一方的な解約がリスクを伴いますが、それ以上に、労働契約の解約は大きなリスクを伴います。
やむを得ず、解雇ということはあり得なくはないとは思いますが、解雇に至るまでに指導を重ねたのか、スタッフに対して、どのような仕事をしなければいけないのか、きちんと説明したのか、またそもそも、どのような場合に解雇となるのか、ルールを定めて周知したのか、そのようなことが問われるということを忘れてはなりません。
就業規則を整備しても労務トラブルは防ぐことができません。
就業規則はクリニックにとって法律と一緒ですが、立派な法律を整備すれば犯罪がなくなるのであれば、とっくの昔にこの世から犯罪は消えていることでしょう。
大事なことは、定めた規則の周知、その目的の理解と言えます。
よく売られている模範的な就業規則を導入しても、それは所詮ただの紙切れだということをご承知ください。
就業規則は簡単なものでも良いのです。ですので、私どもは職員ハンドブック(ルールブック)を提供し、簡単であっても、多くの人が理解できる内容とすることを目指します。
立派な就業規則だけを用意し、これさえあれば安全と、棚にしまって誰にも見せないでおくことは、所詮絵空事とお考え下さい。
先述のとおり、人間関係から発展したトラブルは、ほぼ確実に労働時間の問題に行きつきます。病院に比べてクリニックの労働時間管理は決して難しくはありません。しかし、労働基準法に基づき適切に管理しなければ法令違反となります。
手続の抜け落ちは案外と多いものです。
先述のように平日9時間×4日、土曜4時間のようなクリニックは、変形労働時間制の届出さえ提出しておけば、その時間内で働く限りは時間外労働が発生しませんが、届出を怠ったために、毎週4時間の未払い残業が発生することになります。
代休を月をまたいで与える場合、1年単位の変形労働時間制を定めて届けておかない限り、割増分は支払わなくてはならなくなります。
社会保険、雇用保険の届出漏れは、さらに多く、社会保険の加入手続を怠ったために、受給できるはずだった年金を請求されるケース、雇用保険の加入を怠ったために受給できるはずだった失業保険を請求されるケースはありえます。
育児休業、介護休業についても、所定の手続きはたくさんありますから、それを知らずに、スタッフに不利益を与えてしまい、あとで損害賠償を請求される、そこまではいかなくても、院長先生への不信感を高めることになる、ということはおおいにありえることです。
繰り返し述べていますが、労務トラブルの発端は、ほとんどが人間関係の悪化です。したがって、労務トラブルを未然に防ぐための最大の対策は、クリニック内でのコミュニケーション促進ということになります。
具体的には以下の2点が重要となります。
ハラスメントの相談窓口を定めることは義務ですが、ただなんとなく定めてはいないでしょうか。多くのクリニックでは院長先生の配偶者の方が窓口になっておられることが多いのですけれど、窓口になられる方がこの問題への関心が高いクリニックでは、やはり労務トラブルは深刻化する前に沈静化することが多いものです。窓口となる方がおられない院長先生の場合は、やはりご自身が相談に乗ることが多いのですが、時間を惜しまず、スタッフさんの声に耳を傾けることが重要ではあります。
アメリカの大統領は、よく演説をします。トップの姿勢を国民に見せることが大切と心得ているからです。院長先生はクリニックの大統領です。クリニックでは往々にして看護師、事務職、技師職など職種同士の反目が起こりがちですけれど、院長先生以外の全員が、これらの職種の職員なわけですから、院長先生でなければ職種間の反目を防ぐことはできません。
朝礼でも、定期ミーティングでも、スタッフ間で協力し合うこと、コミュニケーションを取り合うことを常に求め、院長先生自ら、風通しのよいクリニックを作ることを宣言してください。
労務トラブル発生時の対応と言っても、たとえばハラスメントの訴えの対応と、未払い賃金の請求の対応はまったく異なります。
ただ、大切なことは、まず、相手の言うことを否定せず、真摯に耳を傾けることでありましょう。
不明な点は、ただちに専門家にご相談ください。
院長先生が労務のプロでないことは、スタッフさんもわかっています。「専門家に聞いてみる」という回答が、スタッフさんの信頼につながることもあるのです。
千葉県船橋市にある東葉社会保険労務士法人は、クリニックの労務問題解決をサポートする社会保険労務士事務所です。3名の社労士が、労働保険・社会保険諸手続きや人事労務支援サービスなどのサポートを提供いたします。
名称 | 東葉社会保険労務士法人 |
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代表者 | 高田 零 (千葉県社会保険労務士会会員・産業カウンセラー) |
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